技術・人文知識・国際業務の「公私の機関」とは

技術・人文知識・国際業務(通称:技人国)ビザは、日本で就労するための主要な在留資格の一つです。ビザの取得に際しては、「本邦の公私の機関」との契約に基づいた業務に従事することが求められます。 本記事では、この「本邦の公私の機関」の意味や具体的な要件、判定のポイントについて、実例を交えながら解説します。

 

1. 技術・人文知識・国際業務在留資格の概要

 

「技術・人文知識・国際業務」のビザは、エンジニア、デザイナー、国際ビジネスに携わる専門家など、幅広い職種に対応しています。 この在留資格では、「本邦の公私の機関との契約に基づいて業務に従事する活動」が要件となります。つまり、就労先の企業や機関が、日本国内に実態ある事業所を構えているかどうかが重要な審査ポイントとなるのです。

 

2. 「本邦の公私の機関」の基本的な定義

 

2.1 「公私の機関」とは

 

「公私の機関」とは、契約の主体や事業の運営主体として認められる組織や団体を指します。 ここでの「機関」には、以下のようなものが含まれます。

 

法人:一般企業、合同会社、株式会社など、法人格を有する組織

 

公的機関:国、地方公共団体、独立行政法人、公益法人など

 

その他:任意団体や場合によっては自然人も含まれるが、実務上は事業の安定性や継続性の証明が難しいため、あまり採用されません

 

また、「公私」には、公的な組織と私的な組織の両方が該当します。つまり、民間企業であっても、公的機関であっても、一定の基準を満たしていれば「公私の機関」として認められるのです。

 

2.2 「本邦の」とは

 

「本邦の」とは、日本国内に事業所や支店などの拠点が存在するかどうかを指す条件です。 たとえ外国の企業であっても、日本国内に事業所が設置されていれば、この要件を満たすと判断されます。

 

3. 事業の適正性、安定性、継続性の要件

 

国や公立機関以外の組織の場合、単に存在しているだけではなく、その事業が「適正性」「安定性」「継続性」を備えていることが求められます。 これらの要件は、以下の基準に基づいて判断されます。

 

適正性
法令遵守、必要な許認可の取得など、事業が法的に正当な運営をしているかどうか。飲食業や建設業なら、所定の営業許可証や建築許可の有無

 

安定性
売上高、利益、組織体制、設立年数など、事業が安定的に運営されているかどうか。長期間にわたって一定の売上や利益をあげ、組織が整備され信頼性の高い運営

 

継続性
今後も継続して事業が行われる見込みがあるかという点。組織の規模や事業計画、運営の歴史など
特に、自然人個人の場合はこれらの要件を立証するための資料が乏しく、実務上の対応は難しいとされます。そのため、ビザ申請の契約主体は、通常、法人や公的機関など実績と安定性が証明できる組織が求められるのです。

 

4. 「本邦の公私の機関」の具体例

 

ここでは、具体例ごとに「本邦の公私の機関」として認められるかどうかを見ていきます。

 

4.1 日本に事業所を有する日本企業

 

例:東京都内に本社・支店を持つ株式会社

 

判断:明確に「本邦の公私の機関」に該当

 

理由:法人格があり、かつ日本国内に事業所が存在するため要件をすべて満たしています。

 

4.2 日本に事業所を有する外国企業

 

例:海外本社を持ちながら、国内に支店や営業所を設けている企業

 

判断:「本邦の公私の機関」に該当

 

理由:会社としての法人格が認められ、日本国内に事業拠点があるため、ビザの要件をクリアします。

 

4.3 日本に事業所を有しない会社

 

例:本社が海外にあり、日本国内には一切の拠点がない企業

 

判断:「本邦の公私の機関」には該当しない

 

理由:日本国内に事業所が存在しないため、「本邦」の要件が満たされません

 

4.4 日本でリモート就労を行うが、日本に事業所を持たない企業

 

例:在宅勤務を推奨する企業で、日本適用の契約があった場合でも拠点が海外のみの場合

 

判断:「本邦の公私の機関」には該当しない

 

理由:形式上は日本市場での業務が行われていても、実態としての事業拠点が日本国内に存在しないため、要件をクリアできません

 

5. 行政書士としてのチェックポイントと注意事項

 

行政書士事務所がクライアントの在留資格申請をサポートする際には、以下の点を入念に確認することが重要です。

 

契約書類の確認
契約主体が明確に法人など、信頼性の高い組織であるかどうかを確認する必要があります。

 

事業の実態調査
事業場所、設立年数、売上実績などから、安定性・継続性が証明できる資料の提出を求めると安心です。

 

最新の入国管理局の判断動向
入国管理局の基準は時折変更されるため、最新情報や判例をチェックしておくことが求められます。

 

こうした確認ポイントを的確に押さえることで、ビザ審査の過程におけるトラブルを未然に防ぎ、クライアントへの最適なサポートを実現できます。

 

まとめ

 

「本邦の公私の機関」とは、技術・人文知識・国際業務在留資格取得における重要な要件の一つであり、契約主体が法人や公的機関であること、さらに日本国内に事業拠点を有することが求められます。 また、事業の適正性、安定性、継続性の各要件を十分に証明できる体制であることが、審査において不可欠なポイントです。 行政書士としては、正確な情報収集と最新の法令・判例の把握により、クライアントに対して的確なアドバイスを提供することが重要です。

 

このように、各要件をしっかりと理解することで、技人国ビザの申請手続きがスムーズに進むとともに、将来の日本での就業活動における安定性も確保できます。今後も最新情報をキャッチし、より確かなサポートを心がけましょう。

 

行政書士江坂国際法務事務所